
「原子核の多様な个性」に着目した
全く新しい分子科学を创出し、
クリーンな水素社会を実现したい。
理学研究科 助教 金 賢得
京都大学大学院人間?環境学研究科博士後期課程修了。2004年、同 理学研究科助手。2007年より現職。2013年から2018年まで、科学技術振興機構「さきがけ」研究員。専門分野は粒子群の非平衡量子動力学。研究テーマとして水素系の量子分子動力学法の開発のほか、半導体をはじめとしたナノマテリアルの光励起ダイナミクスにも取り組む。京都大学創立125周年記念ファンド「くすのき?125」の2020年度採択者。採択テーマは「核の個性が顕在化する分子科学から水素社会の実現へ」。
2种类の水素を制することが、水素社会への键となる。
私の専门は非平衡量子动力学法というもので、特に分子を构成する原子核と电子の振る舞いを「波」として表现する新しい计算手法「量子分子动力学法」を开発してきました。特に水素分子を研究することは基础科学の进歩に资するだけでなく、カーボンニュートラルな水素社会を実现するためにもとても重要な役割を果たすと考えています。
炭素燃料に代わるクリーンなエネルギー源として水素が注目されていますが、现在のエネルギーを代替するにはまだまだ课题があります。その大きな一つがパラ水素の纯化生成です。
水素分子には、パラ水素とオルソ水素(オルト水素)という水素核の性质の违いによる二つの种类が存在します。简単に言えば、パラ水素は二つの水素核が回転しておらず、エネルギーが最も低い基底状态にあり、オルソ水素はその逆で、二つの水素核が回転していてエネルギーが高い核の励起状态にある水素分子です。
通常、常温で水素を合成すると3:1の割合でオルソ水素が多く生成されます。その水素を冷やして液体水素として贮蔵すると、オルソ水素は时间が経つにつれ、より安定なパラ水素にゆっくりと化学転换していきます。このとき、放出されたエネルギーによって、せっかく冷却した液体水素が一気に高温化して蒸発してしまいます。これでは贮蔵や输送を行う上で、とても安全とは言えません。そこで现在取られている方法は、一度生成した水素をひたすら冷やし続けることで急激な高温化や蒸発を防ぐというもので、実はこれが水素エネルギーの贮蔵?输送コストを大きく引き上げる一因となっています。この一连の冷却のために、最初に作られた水素エネルギーの30%ほどが失われているとも言われています。つまり、安定なパラ水素のみを最初から纯化精製する仕组みを作ることができれば、コストを剧的に下げることができ、水素社会の実现に大きく近づくというわけです。
私の研究では、パラ水素とオルソ水素、両分子の违いを核と电子のミクロなレベルから量子分子动力学法によって解き明かすことで、パラ水素のみを纯化精製する方法を开発することをめざしています。计算によって明らかになったパラ水素とオルソ水素の核励起の有无による性质の违いを最大限に利用して、パラ水素のみを选り分けることができるナノ构造をデザインし、パラ水素の纯化精製につなげます。パラ水素とオルソ水素の混合物をナノ构造に流し込んで、ふるいにかけるようなイメージですね。
多孔性ナノ空间を使ってパラ水素とオルソ水素を分离するイメージ。
金先生の研究は、トヨタ?モビリティ基金による「水素社会构筑に向けた革新研究助成」(2017年度)に选定された。写真は研究费の授与式の様子。
サイエンスと社会とのつながり、どちらも大切な「自分らしさ」。
分子科学の世界では、これまでは电子の振る舞いこそがすべての物性や现象を决めていて、原子核は正电荷を帯びたただの点として扱われ、それほど重要ではないと考えられてきました。こうした认识に対して、私はパラ水素とオルソ水素の违いに代表されるような「原子核の个性」に着目した新しい分子科学を创っていきたいと考えています。核は大きさにするとわずか0.1オングストローム(1000亿分の1尘)という小さな量子波ですが、その违いに自然の多様さが现れ、社会までも変える可能性を秘めているというのは、非常にロマンがありますよね。
これまでの枠におさまらない研究に取り组んでいるので、化学の人からは『こんなの化学じゃない』、物理の人からは『これは物理ではない』と言われてしまうこともあります。そんなときは少し落ち込みますが、「でもそれってオンリーワンということだな」と前向きに考えています。学部时代から长い时间を京都大学で过ごして、いい意味のマイペースさというか、周りに流されずに、周りと违うことをむしろ「自分らしさ」として楽しむ姿势は、京都大学で培われたものかもしれません。
一方で、マイペースながらも社会とのつながりを持ち続ける柔软性も研究者には大切だと思います。私にとってはそれが水素社会の実现という目标に挑戦することでした。
纯粋なサイエンスとして研究を楽しんでいた私が社会に目を向ける転机になったのは、2011年の东日本大震灾でした。地震と津波による被害や原発事故のニュースを日々目の当たりにして、その时に研究者としての圧倒的な无力感を感じたんです。あの时の无力感に対する自分なりの「答え」を研究者人生の中で探さなければいけないという使命感が、今も胸にあります。それからは、サイエンスの楽しさを追究すると同时に、さらにその先、どうやってそれを社会につなげていくかを常に头の中で意识するようになりました。
化学か物理か、サイエンスか社会贡献かといった线引きにとらわれずに、これからも自分らしく楽しいと思える研究に迈进していきたいですね。
オンリーワンであることを楽しめるマイペースさと、それでも社会とのつながりを持ち続ける柔软さ。





