2020.07.02 THU
日本で唯一の総合的数学研究所
数学は、さまざまな学问の基盘となる基础科学である。多くの学问で活用されている概念や数式を、ピタゴラスやユークリッド、オイラーやガウスなど伟大な数学者たちが生み出してきた。纯粋な数学は、世の中に存在する事物からは独立して头の中だけで构筑されるものだけに、それまでの见方や捉え方を根底から覆す力を持っている。とくに21世纪以降、复雑に変化?発展していく技术や社会の问题に新たな発想を提供する存在として重要性を増してきた。また一方で、社会の复雑な问题を解决するために応用される数学の技术が、数学に新たな理论をもたらしその可能性を広げている。
こうした纯粋数学の探求と数学の応用を両轮として、最先端の数学?数理科学の総合的な研究を进める国内唯一の数学研究所が、京都大学数理解析研究所(以下、数研)である。设立以来50年以上にわたって継続してきた优れた研究活动によって、世界的な研究所の一つとして认知されている。
数学研究の拠点として世界的に注目される京都大学数理解析研究所
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共同利用研究所としての出発
数研が设立されたのは、1963年、东京オリンピック开催の前年にあたる。设立の契机となったのは、さらに9年ほど前、戦后の产业復兴にとって数理科学の振兴が重要という観点から、数学者や理工系の数学関係の研究者たちによって数学を主とする研究所设立を求める声が高まったことにある。
戦后、日本の科学技术研究において、高度に発展する先进诸国との格差をいかにして埋めるのかが大きな课题となっていた。とくに遅れている基础科学分野のレベルアップを进めるのに重要视されたのが研究の総合化や组织化だった。その机运をさらに高めたのが、汤川秀树博士のノーベル赏受赏(1949年、物理学赏)を记念して京都大学に汤川记念馆を设立し、全国の理论物理学研究者が利用できる共同利用研究所とする构想だった。1953年には、文部省(现:文部科学省)によって、个々の大学の枠を越えて広く研究に活用できる大学附置共同利用研究所の制度が発足。京都大学にその第一号となる基础物理学研究所が置かれたのを皮切りに、各分野で共同利用研究所の设立が活発になった。
このような流れがあり、数学の研究所も构想段阶から共同利用研究所として考えられた。当初、设置が検讨されたのは东京大学だったが、附置研究所の数を制限したいという东京大学侧の意向で断念せざるを得なかった。その后、いくつかの候补のなかでも数学研究が活発だった京都大学が有力候补とされるようになった。しかし、全国共同利用の性格を强调したため、大学自治を主张する京都大学侧と意见が対立するなど、ここでもすんなりとは事が运ばなかったという。検讨の末にようやく京都大学への设置案が具体化され、1963年4月、京都大学数理解析研究所が発足した。「数理解析」という名称になったのは、1944年に设立された统计数理研究所と重复する分野を除き応用解析を主体とするという当初のプランによるものだった。
大学附置共同利用研究所の第一号となった京都大学基础物理学研究所
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歴史を彩る辉かしい研究実绩
数研は、日本の数学研究の最先端を担う存在として、数々の世界的実绩を挙げてきた。代数几何学分野では、数学のノーベル赏とも言われるフィールズ赏を受赏した日本人3人のうち2人を辈出。1970年、アメリカ?ハーバード大学教授时代に特异点解消问题を解决した成果によって受赏した广中平祐京都大学名誉教授、1990年、3次元代数多様体の极小モデル理论(森理论)で受赏した森重文京都大学高等研究院院长である。
数学研究において新たな分野を确立するという伟业を成し遂げた研究者やグループもいる。确率解析を创始した伊藤清京都大学名誉教授は、ブラウン运动を用いてランダムな动きを记述する确率微分方程式を确立、键となる公式は「伊藤の补题」として世界に知れ渡った。数学だけでなく物理学、工学、生物学、また株価のオプション理论など幅広く応用され、ウォール街で一番有名な日本人と呼ばれたこともあったほどだった。2006年、数学研究が科学技术やビジネス、人々の日常生活など数学界の外にインパクトを与えた科学者を顕彰する目的で创设された国际的な数学赏、ガウス赏の第1回目の受赏者となった。
代数解析学を创始したのは、佐藤干夫京都大学名誉教授のグループである。佐藤先生は佐藤超函数、概均质ベクトル空间、顿加群、ソリトン方程式と无限次元グラスマン多様体などの理论を次々と提案し、2003年にはウルフ赏(数学部门)を受赏した。その研究は佐藤スクールと呼ばれる弟子たちに受け継がれ、顿加群の理论を确立し2018年に日本人初のチャーン赏を受赏した柏原正树京都大学名誉教授、柏原名誉教授とともに超局所解析学を発展させた河合隆裕京都大学名誉教授などが素晴らしい业绩を挙げている。
また応用数学においては森正武京都大学名誉教授らによる数値解析、碍础叠础グループによるかな汉字変换システム奥苍苍など先进的なソフトウェア开発のほか、离散最适化分野、数理物理学分野、流体力学分野など数々の贡献が挙げられる。
フィールズ赏受赏メダル
ガウス赏受赏メダル
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近年では、数论几何学、量子几何学など世界をリードする研究が行われている。数论几何学では、望月新一教授が2012年に発表した宇宙际タイヒミュラー理论によって整数论の难问とされてきた「础叠颁予想」の解明が进んだ。数研が编集し欧州数学会が発行する学术誌『笔搁滨惭厂』に掲载が决定した4编の论文は、600ページを超える膨大なものであるが世界的な注目を集め、数论几何学の新しい方向を切り拓くものと期待されている。量子几何学では、望月拓郎教授が代数?几何?解析のすべてが络み合う调和バンドルの理论を大きく拡张し、その応用として顿加群に関する「柏原予想」を証明した。これは解决には50年はかかるだろうと言われていた非线型偏微分方程式についての极めて难しい问题であったが、望月拓郎教授は8年余りをかけて総计1000ページを超える论文によって解决し高く评価されている。
望月新一教授の宇宙际タイヒミュラー理论が掲载される学术誌『笔搁滨惭厂』
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若手にとって理想的な研究环境
このような辉かしい実绩がなぜ生まれ続けているのか。数研前所长?山田道夫特任教授はその背景に「设立以来、所员の研究环境を守ることを非常に重视してきた」ことがあると语る。
「数学の研究は考えることが第一で、そのためには、静かに集中できる时间をまとまって确保することがどうしても必要です。若い助教や准教授にこそそういう时间をたっぷり提供すべく、研究以外の用事は主に年配者の教授が担当するというのが数研の伝统です」
このようなスタイルは、数学の学问的な特徴とも深く関连している。数学は、他の分野や社会からの要请によって进展するのではなく、数学の中の原理で重要な问题が提起されて研究が进んでいく。
「伊藤清先生は、ファイナンスの世界で称えられた时、『私はそのような研究をした覚えはない』とおっしゃっておられたそうです(笑)。たとえば、19世纪の数学者リーマンが确立したリーマン几何学の枠组みは一般相対论に使われ、それが今の骋笔厂技术の精度を上げるために不可欠になっています。このように、その时は何に応用できるのかわからなくても、100年経ったらそれなしでは世の中が成り立たなくなっているといった研究成果が、数学には本当にたくさんあります」
だからこそ、数研では研究者を“放っておく”ことを重视する。できるかできないかわからない、というようなチャレンジングな研究ができる环境づくりが、今までにないような素晴らしい発见につながってきた。望月教授の新理论も、论文を书きあげるまでに20年の歳月がかかったという。
「どのような人を迎え入れるか、ということにも心を砕いています」というのは现所长?熊谷隆教授だ。数研にとって一番重要な研究资源は人そのもの。研究所の存続をかけて常に背水の阵を敷くというような意识で、优れた研究者の确保に临んでいるという。
「今までに研究所として业绩を挙げてきた分野、得意な分野を大切にしながら、それにこだわることなく、広く国内外を见渡してどのような活跃をしているのか常に情报を収集しています。必要な人だと思えばスピーディに迎え入れるようにしているのが、数研がうまく动いている一つの要因だと思います」
若手が存分に研究できる环境があるのが京都大学数理解析研究所の特徴だと、数研前所长?山田道夫特任教授は语る
年间4,000人の研究者が来访
纸とペンさえあれば他に何もいらないというイメージのある数学研究だが、実はそうではない。「优秀な人と集まってディスカッションし続けられることが、数学研究の生命线」と山田前所长も话すように、优れた人と実际に会って议论しアイデアをキャッチボールすることによって、一人で机に向かって考えているだけでは生まれなかった成果が形になることが多い。
こうした环境づくりに一役买っているのが、创设以来継続してきた、全国の数学研究者が利用し共同研究を进められるオープンラボラトリーとしての役割だ。毎年共同研究プランを国内外に募集し、応募のあった中から约80件の共同研究が実施されている。以前から海外の研究者も多数访れていたが、2018年11月に国际共同利用?共同研究拠点に认定されたことでさらに増加。数研自体は40名弱の组织だが、访れる研究者は年间4,000人にものぼり、そのうち500人は海外からの访问者である。
共同研究プロジェクトの中でも最も重要视しているのが、访问滞在型研究と呼ばれる研究集会だ。1年ぐらいの期间を设定して一つのテーマについて何件かの研究会や共同研究を行いながら、その间に该当分野の世界的な研究者何人かを招いて1~3カ月程度滞在してもらい、密な议论を重ねる。世界の数学研究において标準的なスタイルだが、数学に特化した访问滞在型研究を年に2件実施している研究所は国内では他にないという。
「ただ、年に4,000人もが访れる研究所にしてはスペースが狭すぎます。世界の有名な数学研究所では、一人で静かに思索し、时には自由にディスカッションできる快适な空间が整备されていますが、数研ではせっかく着名な数学者に来ていただいても相部屋の研究室で我慢してもらうこともあります」と熊谷所长は问题点を指摘する。
数学研究には工学系のような最新の実験装置は必要ないが、研究活动の広がりや深化の要となるのは优れた研究者を集めて自由に议论ができる环境であり、その整备には相応の予算もスペースも必要になる。快适な研究环境は研究者の来访モチベーションとしても大きなものがあるため、早急に改善が望まれる深刻な问题だと言えよう。
国际共同利用?共同研究拠点として认定される京都大学数理解析研究所には、世界中の优れた研究者たちが访れる
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最先端の数学に触れる大学院教育
所员の研究活动、国际共同利用?共同研究拠点の事业に加え、数研のもう一つの重要な柱となっているのが大学院教育だ。1970年から実施している大学院教育は、マンツーマンに近いスタイルでのセミナー指导が核となっている。修士2年にもなると既存の理论をベースに何か新しいアプローチを独自に见つけていくことが求められ、自分の考えを発表しては一流の研究者に突っ込まれるという経験を繰り返しながら成长していく。
「研究所内にはいつも海外から优秀な研究者が谁かしら来访しており、院生は研究集会にもほぼ自由に参加できます。読んでいた文献の着者がすぐそばで研究をしているという非常に恵まれた环境があります」(熊谷所长)
このような世界の最先端に生で触れられるダイナミズムが、数研の大学院教育の大きな特长の一つ。刺激的な环境から、これまでに多くの优れた若手研究者を辈出している。
国际共同利用?共同研究拠点であることは大学院教育を行う上でも重要な意味があると、数研现所长?熊谷隆教授は説明する
アメリカ数学会の学会誌で「an Institute for Japan and the World(日本と世界のための研究所)」と形容されるなど、数研の活動は世界でも評価されている。熊谷所長は、「国内外の研究機関とさらにシステマティックに連携し、国際的なハブとなる研究所にしていきたい」と今後の抱負を語る。また、訪問滞在型研究など重要な研究に重点配分していくことに加え、多様な研究分野に広く配分することにも気を配っているという。「数学は、どこから芽が出てくるのかわかりにくい。広範囲にタネを撒くこともとても大切」と、熊谷所長は考えるからだ。
优秀な人が集まるから优れた研究が生まれ、前途有望な若手が育つ。このような好循环が数研には根付いている。このサイクルを今后ますます加速させていくことで、京都大学数理解析研究所の世界における存在感はさらに高まっていくだろう。
- 世界的実绩を挙げてきた日本を代表する数学研究の拠点
- 若手が思う存分に研究できる环境を重视
- 年间4,000人の研究者が来访する数学研究の国际的ハブ
「京大数理科学」が、外的な制约にとらわれない自由な発想のもと発展していくために、寄付をお愿いしております。本记事と関连する基金をご绍介しますので、ぜひともご支援を赐りますようお愿い申し上げます。







