2012年2月22日

左から明和准教授、平田特定准教授
ヒトは、他者の行為のどこに注目し、どのような情報を選び、何を学んでいるのでしょうか。明和政子 教育学研究科准教授、平田聡 霊長類研究所特定准教授らの研究グループは、ヒトは他者の顔色をモニタしながら他者の行為を理解するという特徴を初めて明らかにしました。この研究成果は、2012年2月21日16時(ロンドン時間)発行の「Nature Communications」に掲載されました。さらに、同誌における「今週のFeatured Paper」にも選ばれ、世界に配信されます。
研究の概要
ヒトは、他者の行為からさまざまなことを観察学习します。その际、たんなる物理的な体の动きの连続体として捉えるのではなく、意図など、他者の心的な状态をトップダウン的に読み取る性质があります。しかし、心的なフレームワークで他者の行為を理解する性质が、ヒトではどのように発达するのか、またこうした性质がヒト以外の动物とどの程度共有されているかについては、まったく未解明のままでした。
我々は、生后8ヶ月、12ヶ月のヒト乳児と、ヒト成人、ヒトにもっとも近縁な动物种であるチンパンジーを対象に、アイ?トラッカーという计测技术を用いて视线计测をおこない、それぞれの他者の行為を见るスタイルを比较しました。アイ?トラッカーは、乳児やチンパンジーの身体を拘束することなく、自然な状态で视线の动きを计测することが可能です(図1)。他者の行為を理解するスタイルとして、他者の行為の目的を予测する能力と、他者の行為が进行している间、どの部分に注目しているかを调べました。

図1: ヒトとチンパンジーの実験のようす

図2: ヒトの成人とチンパンジーは、他者の行為の目的が
达成される(ジュースがコップに注がれる)前に、すでに
予测的に视线を目的(コップ)に向けた。
チンパンジーは、ヒトの成人と同じく、他者がある目的に到达する以前にその目的を予测し、视线を向けることがわかりました。たとえば、他者がコップにジュースを注ぐ动作を见た场合には、実际にコップに注がれるより前に、コップに视线を向けました。他者の目的がコップにジュースを注ぐことであることを理解し、その动作を事前に予测したためと解釈できます。ヒトの乳児では、ヒトの成人やチンパンジーに匹敌するような予测的视线はみられませんでした(図2)。この理由として、脳神経科学の研究から、他者の行為の理解は、観察者自身がその行為を产出できることが前提となること(ミラーニューロンシステム)が示唆されています。つまり、他者の行為を理解するためには、まず自分でその行為ができることが前提になると考えられます。実际、ヒトの成人とチンパンジーは、観察した行為を自らおこなうことができたのに対し、ヒトの乳児は、その行為をおこなうに十分な运动机能を获得していませんでした。
しかし、ヒトとチンパンジーとの间で、他者の行為理解のスタイルが明确に异なっている点も见出されました。ヒト、とくにヒトの乳児は、他者の行為を観察する间、チンパンジーに比べて、长时间、他者の颜に视线を向けることがわかりました。チンパンジーは、他者の颜を见ることは非常に少なく、一贯して物に视线を向けました。さらに兴味深いことに、ヒトの大人は行為の目的が达成された后は、他者の颜への注意が减少しました。他者の颜を见ることは、他者の心を推测する过程を反映していると考えられます。他者が何に注目しているか、どんな意図をもってものを操作しているのかといった心の状态を推し量るために、颜を见るのだろうと解釈できます。ヒトは、操作されている物と、操作する他者の情报を统合させて、行為の目的を予测し、理解するスタイルをとるのに対し、チンパンジーはおもに物の情报、たとえば物と物との因果関係に注目して、行為を予测、理解することが明らかとなりました(図3)。
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| 図3: (左)チンパンジー(12歳)の視線パターンと(右)ヒト(12ヶ月児)の視線パターン | |
他者の行為を観察し、学ぶ能力は、ヒトの「文化」の基盘です。ヒトは、他者の行為を详细に観察し、学习することで、蓄积された知识や技术を世代を越えて伝达してきました。本研究が明らかにしたヒトの学びのスタイルは、ヒトとチンパンジーが进化の道を别った后に、ヒトにおいて独自に获得したものである可能性が示唆されます。ヒトが他者の行為から学ぶのは、行為の表面的な部分だけではありません。他者の行為の背后にある心の状态をも推测し、予测と照らし合わせながら柔软に判断するという深い理解にもとづくものです。これは、ヒトが复雑な社会的环境の中で生存する上で、适応的な学びのスタイルであったと考えられます。ヒトは、他者の颜色を见て、心の状态と照らし合わせながら次の展开を予测するよう発达していくといえるでしょう。
论文情报等
- 论文は以下に掲载されております。
(京都大学学术情报リポジトリ(碍鲍搁贰狈础滨)) - 以下は论文の书誌情报です。
"Humans and chimpanzees attend differently to goal-directed actions"(ヒトとチンパンジーは、他者の行為に対する注意の向け方が異なる)
Myowa-Yamakoshi, M., Scola, C., Hirata, S. Humans and chimpanzees attend differently to goal-directed actions. Nat. Commun., 10.1038/ncomms1695 - 研究组织
明和政子(京都大学教育学研究科准教授)、Céline Scola(フランス?エクス-マルセイユ大学)、平田聡(京都大学霊長類研究所特定准教授)の3名
※厂肠辞濒补は、本研究実施时に明和研究室にインターンとして在籍しました。
※平田は2011年8月まで林原类人猿研究センター(冈山県玉野市)に主席研究员として在籍しました。本研究におけるチンパンジーを対象とした実験は、林原类人猿研究センターにておこなわれました。
【本研究への支援】
本研究成果は、以下の事业?研究领域?研究课题によって得られました。
1.科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究課題名: 「意識?内省?読心-認知的メタプロセスの発生と機能」
研究代表者: 藤田和生(京都大学大学院文学研究科 教授)
研究期間: 2009年4月~2014年3月
2.科学研究費補助金 基盤研究(B)
研究課題名: 「大型類人猿の他者理解と自己理解に関する比較アイトラッキング研究」研究代表者:平田聡
研究期間: 2011年4月~2014年3月
3.科学技术振兴机构(闯厂罢)
研究領域: ERATO戦略的創造研究推進事業
研究課題名: 岡ノ谷情動情報プロジェクト
研究代表者: 岡ノ谷一夫(東京大学 総合文化研究科 教授)
グループリーダー 明和政子
研究期間: 2008年11月~2014年3月
- 朝日新聞(2月23日 23面)、京都新聞(2月22日 26面)、産経新聞(2月28日 25面)、日刊工業新聞(3月7日 23面)、毎日新聞(2月22日 24面)および東京新聞(2月22日 3面)に掲載されました。

